コンセプト
希望をつなぐがん治療
現在、進行がんに対する診療は、様々な分野の専門家が集まり、個々の患者さんの治療方針をキャンサーボードで議論しながらすすめる、Multidisciplinary treatment approach (集学的治療アプローチ)が一般的になりつつあります。我々のグループは特に肝転移を有する進行大腸癌の診療において、下部消化器外科、肝胆膵外科、臨床腫瘍科、放射線治療科の強力な連携体制のもと、真の集学的治療をいち早く導入し、過去10年に渡りチーム医療を実践してきました。
大腸癌は化学療法を含む集学的治療によって根治切除に持ち込むことができれば、肝転移や肺転移があるようなstage IVの病態でも治癒ないし長期生存を期待できる特殊な消化器癌です。化学療法の進歩、外科的な周術期管理の進歩は、一昔前であれば切除不能とされていたような症例でも、治癒につながるような治療の可能性を広げています。しかし、Cureを目的とした治療は進行した症例であればあるほど複雑かつ困難であり、手術の難しさもさることながら、経験に裏打ちされた適切な臨床判断が求められます。
巷ではよく「諦めないがん治療」という言葉を見かけます。しかし、これは可能性を追求するという名目のもとに効果があるかわからない「賭け」のような治療をすることではありません。手術にせよ化学療法にせよ、医療という名目がなければ身体を傷める傷害行為であり、「やってみる」という考え方は許されないからです。一人ひとりの患者さんの状況を適切に判断し、最善と考えられる治療シーケンスで最終的に治癒切除に持ち込む。そこに至る道程には道標となるエビデンスも答えもなく、頼れるものは診療チームの経験値です。
我々のかかげる「諦めない治療」にはきちんとした根拠があります。大腸癌に関わらず、stage IVの症例というのは様々な条件の患者集団の集まりであり、全員が一緒ではありません。同じがんでも条件によって求められる治療の戦略も、根治や長期生存の可能性もまちまちです。ですから例えばstage IVだから全員が抗がん剤治療という考え方は間違いであり、手術が適切なケースももちろんありますし、その時その時の状況でベストな選択をできるかどうかが運命を大きく左右します。
我々は自分たちの臨床判断の一つ一つが人の人生を左右しうることを自覚し、そこにプロフェッショナルとしての責任を持っています。当センターは、がんの3大治療である手術、化学療法、放射線治療のすべてをカバーする専門家集団であり、「諦めないための」ベストながん治療とは何か?我々の治療経験と膨大な臨床データをもとに、チームとしてそれを追求しています。そうした我々の取り組みを広く世の中に還元し、一人でも多くの患者さんの笑顔を取り戻すお手伝いをしたいという想いが、当センター設立の原点です。